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雪がちらつく窓をぼんやり眺めながら、
こたつで背を丸めていた僕はふと思い出した。
今日で東京を離れて１年か。
どうして僕はあそこまで日本酒に必死だったんだろう。
ありとあらゆる才が集まる東京、
その熱と狂気に当てられていたのかもしれない。
カリスマ飲食店主や業界の中の人だけじゃない。
SSI研究室専属テイスター、
自宅に酒１０００本、
大会のチャンピオン、
プレ酒を悠々購入するほど課金可能な高額所得者……。
でも僕だって、そこそこ日本酒飲んできた。
酒が好きだし、誰も目を付けていないものだってある。
僕が選んだのが「吟醸」だった。
大吟醸でもない純米大吟醸でもない。
精米歩合で言うと純米吟醸と同じくらい狭いのに、
純米吟醸に比べ圧倒的に影が薄い。
だから「吟醸」と表示された商品をひたすら極めようとしたんだ。
Twitter、Facebook、Instagram、Youtube、 TikTok
思いつく限り発信した。
ゆるキャラ「ぎんじょう君」まで造って、
ウェブ漫画を定期的に投下し続けた。
少しだけど、ファンができた。
一緒に酒の会をやったり、配信で語らったりもした。
でも。
５年、
５年だよ。
ほぼ毎日更新した。
なのにあんまり伸びなかった。
フォロワーもいいねも再生回数も。
どちらがメインかわからない日本酒女子に３日でフォロワー数を抜き去られ、
タイムラインにあふれるのは十四代や新政、最近流行りの酒ばかり。
プレ酒や流行りの酒は僕だって好きだよ。
でもそれだけじゃないんだ、
日本酒の世界は。
なんでなんだ。
悔しい思いでいっぱいだった。
その点、今は穏やかだ。
仕事の都合とはいえ、突然の引っ越し。
心機一転、アカウントは全て消した。
近所に銘酒居酒屋はなく、酒屋すらない。
日本名門酒会加盟店すら車で２時間かかる。
もうプレ酒がずらりと並んだ投稿に歯がみすることもなければ、
誰も飲んだことの無い銘柄を血眼になって探すこともない。
本当によかった。
いや、
わかってる、
わかってるよ。
何者かになりたかった。
自分が好きなものだから。その世界で埋もれたくなかった。
だから何者かがただうらやましくて、必死だったんだ。
飲み始めのころ聖地に並んだ日々が懐かしい。
小規模な飲み会でも、
夜通し「吟醸」を語らったのも良い思い出だ。
今や形として残っているのは、
押し入れ奥の段ボール１箱だけ。
いつか気の合う仲間と飲むために集めていたとっておきだ。
ここじゃ関心のある人はいないだろう。
募集をかけたところで誰も来ない。
それは、
僕なりの「プレ酒」。
片道切符の異動だから、
もう日の目を見ることは無いけれど、
箱を開ければ、
あの時の僕は確かにここにいる。
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フィクションです。
実在のなんやかやは関係ありません。
タワマン文学て今年流行ったやないですか。
なんかそれ見て、いやあれと似ても似つかんけどなんとなく。
あと聖地？行ったことないのサーセン。
みなさま良いお年を。
【今日は何の日】
この手のヤツに毎度中身などない
おしまい。
