↑(ーДー)
ワシやわしわし、クジラのおっちゃんや。
ごぶさたしとりま。
暑いでんなあ。
実はワシ、店やっててなあ、それで忙しかったんや。
今日はちょい息抜きに来たっちゅうわけや。
クジラのおっちゃん「じゃまするで~」
ママスター「あら~、閉店間際でしかも半年ぶりに顔見せるなんてどこのどなたかしら~、邪魔するなら帰ってくんない?」
おっちゃん「悪い悪い。そんないけず言わんといてえな」
ママスター「冗談よ冗談。アタシもアンタんとこオープン初日の一回しか顔出してないからさ」
おっちゃん「ええええ。ママんとこ人気店やし、しゃーない」
ママスター「ほらここ座りな。まだ全然片付いてないけどさ。のっけから日本酒でいい?えーと、あんた小さい蔵の酒がいいんだったっけ?」
おっちゃん「あ、ほなムドーちょうだい」
ママスター「はいはい。で、何かあったの?」
おっちゃん「店閉めてん……酒も肴もこだわったつもりやってんけど……なかなか厳しかったわ」
ママスター「えっ?そうなの??まだ1年じゃない?」
おっちゃん「なかなかお客さん増えんでなあ。ジュゴンとかヒデブみたいなミーハー酒だけやない、特に地元の酒でも小さな蔵の酒とか、あとそんな純米純米言わんとアル添でも美味しい酒もあるからそんなんそれとなく紹介しててんけどな。肴もそんなに安くはないけど、調味料からこだわっててん、せやから原価も高かったし……」
ママスター「行った人のブログ見たけど、結構いい評判だったじゃない」
おっちゃん「せやねん。閉める時は、この1年でもちょっとできた常連さんに何で閉めんのって言われたけど……」
ママスター「こればっかりはねえ……立地とか運とか時流とかもあるから。ただ一つだけ言えるとすれば、もう少し、お客さんに自分が伝えたいものを伝える努力をした方がよかったのかもね。分かってくれる人が分かってくれたらいい。それ理想なんだけど、そんな人なかなかいないしねえ。こだわり系は軌道に乗るまでが結構厳しいかも」
おっちゃん「でも、こだわりまくったオヤジとか、自分が認めない酒くさしまくってるマスターの店でも流行ってるとこあるやん」
ママスター「そこよねえ……でも、そこに行くには突き抜けたモンがあるかないかじゃないかしら。素人でも分かるレベルのめちゃくちゃなコスパの良さとか、ぶっとんだ超ニッチな縛りの酒と肴しか出さないと店とか……そういうのは東京みたいな大都市以外では厳しいかもしれないけどさ」
おっちゃん「ワシにはそれがなかったと……」
ママスター「そんなこともないんだけど、アンタのはマニアック系だしさ、しかも店出したのが地方都市でしょ。さっきも言ったけど、大都市に比べてマニアックな人のいる母数が圧倒的に少ないのよね。そこでオープンしたての店が軌道にのるには、メニュー構成含めて伝える努力はより一層必要だったのと……あとは失礼なこと言うけど、お客さん目線が足りなかったのかもね」
おっちゃん「まだあまり知られてへん美味しい酒と肴を楽しんでもらいたかったし、そんなことはないと思うんやけど……」
ママスター「自分が惚れ込んだもので誰かに伝えたいものがあると、ついつい前のめりになっちゃうのよね……。その熱意のあまり、どや!うまいやろ?素敵やん!ってなっちゃんだけどさ、何も知らない人にとったら、良くて『あ、はい』か最悪『めんどくせー店だな』でオシマイよ。どうしたら注文してくれるか、興味を持ってくれるか、っていう仕掛けよね、大事なのは。自分が特に楽しんでもらいたいものを手軽なセットにするとか、メニュー面だけでなくて、あおり文句とか、ちょっとした心遣いとか、それだけでも違うと思うのよ。あとはイベントとかね。ウチもいろいろやったわー。このノート十冊くらいになったかしら」
おっちゃん「そ、そのノート見せてくれへん?」
ママスター「このノートとかけまして、店つぶしたクジラのおっちゃんととく」
おっちゃん「??そのこころは???」
ママスター「どちらも『見せ(店)ない』!出直してきなッ!!」
おっちゃん「ズコーッ!」
~劇終~
★フィクションです。実在する人物及び団体とは関係ありません。
【今日は何の日】
ちゃんちゃん
こ。
おしまい。